福井産業保健総合支援センター|独立行政法人 労働者健康安全機構

福井産業保健総合支援センター|独立行政法人 労働者健康安全機構

福井産業保健総合支援センター|独立行政法人 労働者健康安全機構

ホーム > 福井産業保健調査研究報告書

福井産業保健調査研究報告書

平成21年度 福井県の女性労働者のワーク・ライフバランスとメンタルヘルスに関する横断調査

福井県の女性労働者のワーク・ライフバランスとメンタルヘルスに関する横断調査

主任研究者  梅澤 有美子(福井産業保健推進センター相談員)
共同研究者  田中 猛夫(福井産業保健推進センター所長)
共同研究者  梅田 君枝(福井産業保健推進センター相談員)
共同研究者  新井 芳行(福井産業保健推進センター相談員)
共同研究者  和田 有司(福井産業保健推進センター特別相談員)
共同研究者  藤野 亜里香(福井大学附属病院小児科)

Ⅰ はじめに

 我々は、平成14年度に産業保健調査研究報告書『福井県内で働く人のメンタルヘルス調査結果』を報告した。男女雇用機会均等法等が行き渡った現在は県内でも専門職女性が増加したはずである。そこで職種も年代も様々な県内女性労働者を対象として仕事と生活と万たるヘルスの関係を明らかにし、女性労働者のメンタルヘルス支援に役立てたいと考えた。また事業場の方針や意識の現状を調査することで女性労働者の生活の質の向上や仕事の継続に対する支援の方向性を探った。

Ⅱ 対象と方法

対象と方法
 対象者:福井県内で同意の得られた103事業場(回収率94.5%)と、女性1,562名(同32.4%、無効11名)。
 調査方法:無記名自記式の調査票を女性労働者と事業場へ配付、個別に記入後当センターへ各自送付した。
 調査票内容:個人票は雇用形態、勤務時間等の労働状況に関する項目。睡眠時間、家族構成など生活状況に関する項目。働き続ける条件などの仕事意識に関する項目。「仕事のストレス判定図」簡易版による12項目。ツングSDS自己評価式抑うつ尺度20項目と子どもがいる人には出産育児に関する項目によって構成した。
また事業場用調査票は事業場自体に関する項目と、育児休暇等の取得者数などに関する項目を質問した。

Ⅲ 結果と考察

1.労働状況に関する項目
 正社員66%、勤続年数「3-10年」が34%。「7-9時間」勤務のいわゆる8時間労働が64%であった。14年度調査で女性労働者のプロトタイプとした「地元で長年働く正社員で8時間勤務」という働き方が減って、パート・契約社員や勤続年数の短い人が増え、勤務時間は短いか長いかの両端の人が増えた。これは14年度に較べ、「事務職」47%「、専門・技術・研究職」21%、「販売・サービス職」12%、「生産・技能職」9%、「管理職」3%と職種が多い影響もあるが、それ以上に昨今の労働状況の反映でもあろう。仕事をしていく上で女性を意識するのは「家事負担」、「仕事」、「体力」の順であった。今後も働き続ける条件として、5割の人が「賃金」「職場の対人関係」「家庭との両立」をあげた。更に管理職や20歳代では「仕事への愛着」を重視していた。

2.生活状況に関する項目
 生活状況を14年度と比較すると三世代家族は依然多いが、30歳代の未婚率は21%から31%に増加している。出勤前に過す時間は既婚者が長く、既婚者の28%が「身支度」「食事」「家事」に2-3時間掛けている。通勤距離は4割の人が5km未満だが、それでも14年度より「2km未満」が減少し、「10km以上」が増えた。
 仕事が終わってからしていることは「家事」「テレビ」「会話」「趣味」の順で、14年度調査と比べると「テレビ」が減り、「趣味(ネットを含む)」が増えている。ストレス解消法は「ショッピング」「休息」「ドライブ・旅行」の順で、「雑談」「テレビ」が低下し、下位ではあるが「読書」「飲酒」「映画等の鑑賞」が増加した。普段の話し相手は「家族」「仕事仲間」「学生時代の友人」の順。割合では「親戚」「近隣」の人が減り「仕事仲間」が増加している。家族や会社以外の社会的な人との会話が減っており、また成果に結びつかないたわいない会話や愚痴は、生の会話よりもブログやツイッターのようなところで吐き出しているのかもしれない。

3. 子育てについて
 福井では3世代、特に祖母頼みの傾向が強い。晩婚化に伴い祖母世代の高齢化、また介護の問題も深刻になってきている。家族によるサポートから、社会全体で子育てや家庭生活を支援する方向性が必要である。

4.メンタルヘルスに関して

ツングSDS特典分布

 メンタルヘルスの指標としたツングSDS自己評価式抑うつ尺度に関しては、上図のように14年度よりも平均得点の低下、「問題なし」の範囲の人が多くなった。また、ストレス判定図でも仕事の量的ストレスが低めで対人支援は高いことなどから本調査の対象者は14年度よりもメンタルヘルス面では改善したといえる。

5.事業場の調査
 メンタルヘルス不全からの職場復帰にはプログラムを策定しているところは多いが介護休暇や育児休暇の場合は少ない。長期休暇からの職場復帰は理由によらず産業保健的な支援が必要であろう。また、小規模な事業場のメンタルヘルス支援に関しては経営者トップの意識が大きく影響しており、産業保健センターによる啓発、支援の必要性を痛感した。

Ⅳ まとめ

 女性労働力率が全国1位である福井県の女性労働者に対して調査研究を行った。ツングSDSやストレス判定図を14年度調査と比較するとメンタルヘルスはわずかながら改善している。仕事に対する意識も、14年度調査の女性の「地位も低いが責任も少ない」と割り切って働く姿勢から脱して、「賃金」「適正な仕事量」「仕事への愛着」「職場の対人関係」を吟味する成熟した働き方へ歩みだそうとしているように見える。しかし意気込みがあればあるほど、実際の仕事上の差別、事業場の規模による差異、家庭と仕事の両立の難しさなど様々な不都合を感じてくるのではなかろうか。今後は、女性としての共通性を踏まえ、あるいは女性の間でも多様な立場や考え方があることを尊重し、さらに男女の違いを超えたメンタルヘルス支援を考えていかねばならないだろう。
 なお、本調査は福井産業保健推進センターの衛生管理者研修やメンタルヘルス研修会に参加した労務管理者・産業看護師の協力を得て実施できたことを感謝したい。
また本調査結果は福井新聞、丹南FM、NHKテレビにて放送され多少なりとも地域に貢献できたが、その責任を感じるところである。本調査に更なる分析検討を加え、現場に根ざしたメンタルヘルス支援を提案していきたいと考える。

福井産業保健総合支援センター

〒910-0006 福井県福井市中央1-3-1 加藤ビル7階
TEL.0776-27-6395 FAX.0776-27-6397