福井産業保健総合支援センター|独立行政法人 労働者健康安全機構

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福井産業保健調査研究報告書

平成20年度 福井県の中小規模事業場におけるリスクアセスメント導入に係る調査

福井県の中小規模事業場におけるリスクアセスメント導入に係る調査

主任研究者  津田 直昭(福井産業保健推進センター相談員)
共同研究者  田中 猛夫(福井産業保健推進センター所長)
共同研究者  髙島 伸明(福井産業保健推進センター相談員)
共同研究者  立神 幹二(福井産業保健推進センター相談員)
共同研究者  辻 浩義(労働衛生コンサルタント ㈱土蔵労働コンサルタント事務所)

1.はじめに

 平成18年改正労働安全衛生法により、労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS)の中核をなすべき「危険性又は有害性等の調査の実施」と「調査等の結果に基づく措置の実施」(以下リスクアセスメントという)が事業者にとって努力義務となり法制化されました。期待を込めて迎えられたリスクアセスメントですが、中小規模事業場ではこの導入にあたっていろいろな問題点を抱えているようです。今回の調査研究は、特にこれらの中小規模事業場を対象に、主としてアンケート調査によりその導入阻害要因などを明らかにして今後の当該制度の普及啓発活動の参考としたいと考えました。

2.背景と目的

 リスクアセスメントは労働災害防止手段として有効な手法です。しかし、中小規模事業場においては、リスクアセスメントの導入に向けた取組は、殆どの事業場は導入・定着への道のりは遠いものとなっています。そこで中小規模事業場における導入・定着の現状と導入・定着に向けた課題(阻害要因の排除等)を明らかにし講習等の実態と問題点やその改善方策や、労働衛生分野の教育ニーズを探ることもこの調査の目的としました。

3.調査の方法

 福井県内の従業員に対して30人以上100人未満の製造事業場500社を対象に、リスクアセスメント活動の導入・実施状況の実態、今後の取組やこの担当者・従事者の教育訓練の状況と導入されない阻害要因等についてのアンケート用紙を配付して回答を求めました(回答率48.6%)。また、本調査の信頼性確保の観点から内37社については、本調査従事者が直接ヒアリング等を行う実施調査を行いました。加えて作業環境の実態把握といった趣旨で有害物質の使用、または暑熱・騒音等が懸念される事業場6社を抽出して、作業環境測定を実施し調査内容の強化に質することにしました。

4.調査結果の分析及び評価の方法

 アンケートの質問項目は、対象事業場の業種・労働者数を問う①属性に関すること、リスクアセスメントに関する知識の有無など②制度(政策)の周知状況そして本調査の基幹項目である③導入・定着状況さらに担当者や従事者の④教育訓練の実施状況、及び導入できないとする企業における⑤阻害要因となるべき事実の五つに大別できます。
 そこで、本調査の分析及び評価においても、以上の5点を中心に回答肢を単純集計し比較検討を行います。  調査対象の有害物資等を取扱う中小企業事業場での具体的なリスク見積は、法により測定を義務付けされている場合は、この測定結果をもってリスク評価に代えられますから、測定の結果の評価(具体的には管理区分)を活用したリスクの見積・評価を容易に行うことができます。本調査では、有機溶剤業務、鉛業務及び粉じん業務、並びに暑熱・騒音業務について抽出した6社に対し、実際に測定結果とその評価結果である管理区分を活用したリスクアセスメントを試みました。

5-1.調査結果(アンケート調査)
①対象事業場の業種・労働者数を問う属性に関すること。 (グラフ1)

グラフ1       (件)

グラフ1_1

グラフ1_2

②リスクアセスメントに関する知識の有無など制度(政策)の周知状況。(グラフ2)

グラフ2                       (件)

グラフ2_1

グラフ2_2

5-2.調査結果(実地聞き取り調査)
 実地聞き取り調査に当って、追加項目により行いました。聞き取り調査により具体的課題等を収集しました。

5-3.調査結果(有害物質等作業環境測定結果)
 有機溶剤業務のうち3事業場の測定結果は、2社は管理区分は第2管理区分でリスクは[中]で、他の1社は第1管理区分でリスクは[低]という結果になりました。
鉛業務については、第1管理区分でリスクは[低]で、粉じん業務については第2管理区分でリスクは[中]という結果になりました。

5-4.調査結果(暑熱・騒音等作業環境測定結果)
 もっとも暑熱環境として厳しい8月初旬に環境測定を実施しました。暑熱の環境測定結果はリスク第3管理区分でリスクは[高~中]で、騒音及び照度測定結果もリスクレベルは、第1管理区分でリスクは[低]でした。

6.考察とまとめ

 いわゆる中小企業が圧倒的多数を占める本県では、リスクアセスメントの導入や実践にあたって多くの課題が顕在することが推測され、本調査においてこれらの阻害要因が明らかになりました。
 本調査結果の要点として、リスクアセスメントについて[殆ど知らない]と[その内容までは知らない]が58%ですが、これを受けた導入状況はその準備・計画を含めると70%で前向きな姿勢が伺われます。反面導入できないも27%とかなりの比率でなんらかの対策が求められます。導入(普及)の困難な理由として、①実務担当者等の人材面、加えて業務多忙が70%を占めていました。研修会への参加状況は参加したことがないが約半数です。しかし、今後参加したいという希望者も16%ですから決して悲観結果ではありません。特に労働衛生分野のリスクアセスメント研修への参加希望者が85%を占めていることも心強い限りです。
 結論としては、本調査対象とした本県の中小規模事業場では、まだリスクアセスメントに対する認識は低いものの、その主たる阻害要因は実務担当者不足と考えられます。そのため積極的な普及啓発活動と相まって実効性のある実務者養成が必要と考えられます。とりわけ、当センターがテリトリーとする有害物質や物理的環境、重ねてメンタルヘルス等[保健・健康]分野を対象とするそれは分かりやすさについて検討し、事業所トップ及び経営管理者への啓発活動の展開により新しい流れが生まれるものと思います。

福井産業保健総合支援センター

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