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福井産業保健調査研究報告書

平成16年度 福井県の建設作業者の石綿肺・胸膜肥厚と肺癌・悪性中皮腫に関する横断調査

福井県の建設作業者の石綿肺・胸膜肥厚と肺癌・悪性中皮腫に関する横断調査

主任研究者:福井産業保健推進センター相談員 菅沼成文
共同研究者:福井産業保健推進センター所長  田中猛夫

1 背景

 我が国における作業環境管理と作業管理に重点を置いた労働衛生行政は一定の成功を収め、昭和30年代には50万人程度が受診していたじん肺検診の有所見率は粉じん吸入によって引き起こされる職業性呼吸器病であるじん肺の発生は大幅に減少しているが、今後も健康影響が問題となると思われるものの一つが石綿によるもので、その発癌性から30から50年間の潜伏期を経て悪性中皮腫という予後不良の悪性腫瘍を引き起こすため、その影響の大きさが再認識されている。わが国では、ようやく平成16年10月からは1%以上含有の建材、ブレーキ等の使用禁止が導入されたが、石綿による悪性中皮腫は、その長い潜伏期間のため使用のピークから30-50年を経てそのピークが訪れると予想されている。
  多くの石綿曝露集団のなかで、建設作業は1)小規模事業場が多い、2)作業現場が一時的である、3)労働者が建設業に長期間溜まっていることは少ないなどの特徴があるため、この集団における石綿曝露状況の把握は十分になされていない状況にある。建設作業は粉じん職場や石綿使用職場に当てはまらず、直接撮影による検診を受けていない石綿曝露作業者も多く存在すると考えられる。
 上述を踏まえて、今回の調査では建設作業従事者における石綿関連性呼吸器疾患と呼吸器悪性腫瘍の頻度を明らかにするために、通常の検診に直接撮影による胸部エックス線検査を加えた横断検査を行い、石綿関連性呼吸器疾患や呼吸器悪性腫瘍の有病率調査を行うことで、福井県下の建設作業従事者の過去の石綿曝露による健康影響を定量することを目的とした。

2 対象と方法

 対象は福井県内の建築関連団体に所属する会員3000名の建設作業従事者の職場検診実施の際、直接撮影による胸部エックス線検査を加えた横断検査を行った。参加の呼びかけは当該団体の事務局を通じて、研究目的と加えられた検査についての説明を含む呼びかけ文により行い、自発的な参加を以って研究への参加了承と見なした。なお、研究計画は福井大学倫理委員会の承認を得ている。
 検診受診者の検診項目は、胸部エックス線検査の他、法定の血液検査である。また、通常の問診項目に加えて石綿曝露についての自記式調査を行った。 今回法定の血液検査結果については検討項目から除外した。自記式調査については当該団体事務局から、それぞれの事業所を通じて個人に配布し、各自記載したものを検診時に提出してもらい未記入や持参忘れについてはその場で記載してもらった。
 胸部エックス線検査の撮影は車載型のエックス線撮影装置により行い通常の肺癌・結核検診については放射線科医が、じん肺検診についてはILO2000年改定版国際じん肺エックス線分類に基づき産業医2名(1名はNIOSH B reader、1名はNIOSH A reader)により独立読影を行い、不一致の症例については2名の産業医が協議して最終決定を行った。統計解析はStata7により行った。

3 結果

1) 対象者の属性
 検診に参加したのは3000名の会員のうち、会員本人とその家族を合わせ856人であった。その856人の参加者のうち、男性は639名(74.6%)、女性は217名(25.4%)であった。平均年齢は男性51.9歳(標準偏差14.3歳)に対し、女性53.3歳(標準偏差12.5歳)であり、年齢構成はそれぞれ50-59歳が最も多く3割程度を占めていた。男性の参加者は基本的に会員本人であったが、この中に稀に家族で建築関係の職についていないものが混入していることが診察時に判明したが、今回の調査では想定外のことであったため、これを完全に除外することはできなかった。
 喫煙歴については、喫煙者が男性で288人(45.1%)、女性で18人(8.3%)であった。喫煙者の平均喫煙本数は男性24.0±9.9本、女性15.5±8.2本、平均喫煙期間は男性25.4±12.8年、女性15.9±7.0年であった。年齢層別に検討すると、喫煙本数は男女共に40代が最も多いが、最も喫煙率の高い層は20-29歳であり、年齢層が高くなると喫煙率は低下した。50歳以上では男性の喫煙率は36% (148/411)であった。

2) 自記式調査による石綿曝露状況
 これらの全てに対して石綿曝露についての自記式調査を行った。過去に粉塵のある作業をした経験を尋ねたところ、全体の61.1%に当たる523人が経験ありと答えた。男性に限ると76.2%がひどい埃がある作業の経験有りと答えた。アスベスト(石綿)の取り扱いについて尋ねたところ31.4%に当たる269人が経験ありと答えた。男性では263名(41.2%)が、女性では6名(2.8%)がアスベスト(石綿)の取り扱いの経験があると答えていた。解体作業を1年以内に経験した者が、全体で268名、男性260名と女性8名であった。これらの中で、石綿製材や石綿の吹き付けのある建物の解体について、経験があると答えたものは、男性にはそれぞれ69名と42名であったが、女性にはどちらの取り扱いについてもいなかった。
 これらの問診結果を総合して、アスベスト(石綿)の取り扱いが過去にあったと答えたか、あるいは、最近1年間で解体・改築時にアスベスト建材あるいはアスベスト吹付けを扱ったと答えた人の合計は276名(32.2%)であり、男性では42.3%(270/639)であり、女性では2.8%(6/217)であった。なお、女性は6名とも最近1年間の曝露はなかった。

3) 胸部エックス線所見
 読影は、1名の医師(NIOSH A reader)が有所見としたものについて、もう一名の医師(NIOSH B reader)が独立して読影を行い分類した結果と比較した。所見が不一致であった場合再度読影を行い最終的な結果を出した。その結果、国際じん肺エックス線分類による分類で小陰影が1/0以上のものは6例(0.70%)であり、そのうち2 例が1/0、3例が1/1、1例が3/2であった。胸膜斑を認めるものは32例(3.74%)であった。胸膜プラークとびまん性胸膜肥厚のどちらかを有するものを胸膜肥厚とした場合、胸膜肥厚を認めるものは5.96%(51/856)であった。男性のほとんどが建築業を行っている会員本人であるので、所見陽性の有病率はさらに上昇する。即ち、小陰影が1/0以上のものは0.78%(5/639)(小陰影が1/1以上のものは0.63%(4/639))であり、そのうち1 例が1/0、3例が1/1、1例が3/2であった。胸膜プラークとびまん性胸膜肥厚のどちらかを有するものを胸膜肥厚とした場合、男性では胸膜肥厚は7.67%(49/639)に認めた。
 また、結核検診および肺癌検診として要精密検査とされたものは、男性5例、女性2例の計7例あった。また、女性の1例については胸膜に接する孤立性の表面平滑な腫瘤像を呈していた。悪性中皮腫を疑う所見を有する者は今回の調査の対象には1例もなかった。悪性腫瘍を疑う陰影については今回は通常検診の通知手続きによったため、フォローできていない。

4) 石綿曝露と胸部エックス線所見
 石綿肺を示す小陰影は、有意差無いものの、曝露あり群のほうが1.45%と、曝露なし群の0.34%に比べ頻度が高かった。胸膜斑とびまん性胸膜肥厚とを合わせた胸膜肥厚については曝露の有無による差はなかった(曝露なし5.34% vs.曝露あり 7.25%)。この傾向は、そのほとんどが建築作業従事者である男性においても同様で、小陰影は曝露あり群でより高い頻度を示したのに対し(表)、胸膜肥厚については曝露の有無による差はなかった。
 ILO分類で3/2 s/sびまん性胸膜肥厚ありとされた作業者は精密検査を行ったところ、呼吸機能の低下も認めた。25歳ごろから20年間ほど前にゼネコンの下請けとして、石綿ボートをかなり使ったとの作業歴が聴取された。一方、曝露なし群での小陰影ありとされた症例は2例あり、60代女性の1例はILO国際じん肺胸部エックス線写真分類で1/0、60代の男性の1例は1/1と判定されていた。

4 結論

 福井県内の建築関連団体の検診参加者に対する質問紙調査からは石綿曝露の可能性のあるものが、32.2%存在した。
 今回の福井県での調査における胸部単純エックス線写真による石綿関連所見の有所見割合は小陰影については6例(0.70%)、胸膜異常所見については5.96%(51/856)であった。男性では小陰影が1/0以上のものは0.78%(5/639)(小陰影が1/1以上のものは0.63%(4/639))であり、そのうち1 例が1/0、3例が1/1、1例が3/2であり、胸膜肥厚は7.67%(49/639)であった。また、悪性腫瘍を考慮して、精密検査ありとされたものは7名であった。
 質問紙による石綿曝露と胸部写真との関係は、小陰影は曝露あり群のほうが、頻度が高かったが、胸膜肥厚では曝露の有無で差が無かった。これは低濃度の曝露は十分認識されていないことを示唆すると思われる。 職業の把握が不十分であったため、(家族検診による受診者が半数程度ある模様)曝露集団が明確になっていない点が本調査の限界である。

表   石綿曝露の有無と小陰影の有無(男性)

石綿 合計 小陰影あり 胸膜肥厚あり
曝露あり
(%)
270
(42.25)
4
(1.48)
19
(7.04)
曝露なし
(%) 
369
(57.75)
 1
(0.27)
30
(8.13)
合計
(%)
639
(100) 
5
(0.78) 
49
(0.78) 

福井産業保健総合支援センター

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