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福井産業保健調査研究報告書

平成18年度 福井県の溶接作業者の呼吸器疾患に関する横断調査

福井県の溶接作業者の呼吸器疾患に関する横断調査

主任研究者:福井産業保健推進センター相談員 菅沼成文
共同研究者:福井産業保健推進センター所長 田中猛夫
      福井産業保健推進センター相談員  黒田岳雄
      福井産業保健推進センター相談員  津田直昭

1 背景

 我が国における作業環境管理と作業管理に重点を置いた労働衛生行政は一定の成功を収め、昭和30年代には50万人程度が受診していたじん肺健診の受診者数も20万人程度に減り、粉じん吸入によって引き起こされる職業性呼吸器病であるじん肺の発生も大幅に減少している。その中で、十分な減少を見ていないのが溶接に関連するじん肺である溶接工肺である。
 粉じん作業別のじん肺所見管理区分決定状況によると、溶接作業が他の粉じん作業に比べ、最も多く発生していること等から、「アーク溶接作業に係る粉じん障害防止対策」については、平成15年から推進している「第6次粉じん障害防止総合対策」の重点事項に掲げられている。
 溶接工肺は特殊なじん肺の形態であるが、珪肺や石綿肺に比べ所見が僅かであることもあり、これまで十分な検討がなされていない。一方、近年注目されているインジウム肺など特殊な金属肺もその素地に酸化鉄などの吸引があることが考えられ、比較的さまざまな箇所で行われる溶接作業の影響を把握しておくことは意義がある。
 また、溶接作業は小規模事業場で下請けとして行われていることが多々あり、これらの事業場においてはじん肺健診も十分行われておらず、また、局所排気装置の導入は十分ではない。本調査においてはその現状を明らかにすることを目的とした。同時に、鉄工溶接が建築現場でも行われる可能性があり、それに関連した石綿関連所見の有無についても検討した。

2 対象と方法

 対象は鉄工関連企業に所属し、複数の労働衛生機関で健診を受診した合計341名の鉄工作業従事者を対象に直接撮影による胸部X線検査による横断検査を行った。当初の計画では鉄工関連団体の自主的な研究参加によって行うこととしていたが、協力が得られなかったため、労働衛生機関を通じて、鉄工関連団体で研究目的に適う胸部直接撮影によるじん肺健診を行っている事業場を対象とし、これらを匿名化した上で、読影を行った。
 健診受診者の健診項目は、胸部エックス線検査の他、法定の血液検査である。今回法定の血液検査結果については検討項目から除外した。
 胸部エックス線検査の撮影は車載型のエックス線撮影装置により行い労働衛生機関の医師と、じん肺健診についてはILO2000年改定版国際じん肺エックス線分類に基づきUS NIOSH B readerが独立読影を行った。統計解析はStata8により行った。

3 結果

1) 対象者の属性
 対象は341名の鉄工溶接作業者であった。その341人のうち、男性は338名、女性は3名であった。平均年齢は37.9 ± 13.2歳で、男性37.9 ± 13.2歳に対し、女性40.0 ± 16.5歳であり、男性については年齢構成は20代および30代が最も多く、それぞれ3割程度を占めていた。
 喫煙歴については、喫煙者が喫煙情報を取ることができた316名のうち男性で204人(64.7%)、女性で2人(66.6%)であった。喫煙者の平均喫煙本数は男性14.8 ± 9.7本、女性15.0 ± 0本、平均喫煙期間は男性17.8 ± 11.9年、女性10.5 ± 0.7年であった。年齢層別に検討すると、喫煙本数は60代が最も多いが、最も喫煙率の高い層は30-39歳であり、70代を除き、どの年齢層も喫煙率50%を超えていた。

2) 胸部エックス線所見
 読影は、労働衛生機関の医師1名の日本じん肺分類による読影結果と米国国立産業安全衛生研究所(NIOSH) B reader(じん肺読影上級医)がILO国際じん肺エックス線分類によって1週間の期間を空けて2回読影した結果とを比較した。所見が不一致であったものについては、再度読影を行い最終的な結果を出した。B readerのILO分類の読影者内一致度は0.90であり、最終結果での読影者間の一致度は小陰影の有無については、kappa=0.54であり、有所見率は極めて低いもののよい一致を示していた。
 B readerによる国際じん肺エックス線分類による読影で小陰影が1/0以上のものは9例(2.44%)であり、そのうち7 例が1/0、1例が1/1、1例が3/2でであった。胸膜斑を認めるものは9名(2.64%)であった。  小陰影について詳細に調べると、0/1以上と分類された26例のうち、陰影のタイプはp/p, p/sなどpタイプの陰影が主とされたものが18例(69 .2%)、qタイプが主とされたものが、2例、s/s, t/tなどの不整形陰影が6例であった。このうち、1/0以上ではpタイプが5例、qタイプが2例、不整形陰影が2例であった。溶接工肺として特徴的なpタイプのじん肺は間質影所見の大半を占めていた(表1)。
 また、結核検診および肺癌検診として要精密検査とされたものはいなかった。結核によると思われるびまん性胸膜肥厚が1例、横隔膜の鈍化を1例に認めた。

表1 間質影のタイプ(形状および大きさ)と間質影の密度との関係
間質影の密度
間質影のタイプ 0/1 1/0 1/1 3/2 合計(%)
p/p 11 2 0 0 13(50.00)
p/q 0 1 0 0 1(3.85)
p/s 2 2 0 0 4(15.38)
q/p 0 1 0 0 1(3.85)
q/q 0 1 0 0 1(3.85)
s/s 3 0 1 1 5(19.23)
t/t 1 0 0 0 1(3.85)
合計 17 7 1 1 26(100)
注:粒状影の径はp<1.5mm,1.5<q<3㎜,3<r<10㎜
不整形影の幅は、s<1.5㎜,1.5<t<3㎜


3) 胸部X線所見と他の変数との関係
 胸部エックス線所見と年齢層、喫煙状況、事業場規模などについての比較を行った。年齢層毎の分析では20代に1名、40代に3名、50代に7名じん肺陰影を認めた。ただし、50代の7例には不整形2例を含む。プラークについては30代に3名、40代に2名、50代に3名、60代に1名であった。石綿肺を示す不整形陰影は、50代に2例のみ(1/1と3/2)であった。年齢層と小陰影の有無との間には有意な差(p = 0.017)があり、50代が9.23%(6/65)と最も頻度が高かった。
 喫煙状況による胸部エックス線所見の間質影の頻度は非喫煙者で高いものの有意差はなく(p= 0.199)、プラークの頻度は非喫煙、喫煙中断、喫煙で差がなかった(p= 0.320)。
 事業場規模別に見ると胸部エックス線による小陰影の頻度は10名未満、30名未満および50-300名の事業場で他よりも高かったが有意差は認めなかった(p= 0.313)。プラークの頻度は、いずれも頻度が低く有意差を認めなかった(表2)。

表2 事業場規模別の男性対象者の間質影の頻度(%)

間質影 プラーク
事業場規模 1型 3型 プラーク
(+)
合計
1-9 1(4.00) 0(0) 2(8.00) 25(100)
10-29 3(3.90) 0(0) 1(1.30) 77(100)
30-49 0(0) 0(0) 1(4.00) 25(100)
50-300 3(4.29) 1(1.43) 1(1.43) 70(100)
301-500 0(0) 0(0) 0(0) 15(100)
500-1500 1(0.79)

0(0)

4(3.13) 126(100)
合計 8(2.37) 1(0.30) 9(2.66) 338(100)


4 考案

 福井県内の鉄工関係の溶接工の健診参加者に対する調査結果からは溶接工肺と思われる作業者が僅かながら存在した。年齢層は50代が最も多く、4例であった。0/1以上と分類された28例のうち、陰影のタイプはp/p, p/sなどpタイプの陰影が主とされたものが19例(67 .9%)、qタイプが主とされたものが、3例、s/s, t/tなどの不整形陰影が6例であった。このうち、1/0以上ではpタイプが6例、qタイプが3例、不整形陰影が2例であった。溶接工肺として特徴的なpタイプのじん肺が間質影所見の大半を占めていた。事業場の規模が従業員数30名未満では頻度が高い傾向があり、より多くの事業場を対象に検討が必要である。
 また、石綿曝露の可能性のあるものが僅かながら存在した。しかし、鉄工関係の溶接工の殆どが工場内での業務を主としており、建設現場での作業が限られることから、今回対象とした集団は予想よりも石綿曝露の頻度が低いと思われた。



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