福井産業保健総合支援センター|独立行政法人 労働者健康安全機構

福井産業保健総合支援センター|独立行政法人 労働者健康安全機構

福井産業保健総合支援センター|独立行政法人 労働者健康安全機構

ホーム > 福井産業保健調査研究報告書

福井産業保健調査研究報告書

平成17年度 企業での過重労働・メンタルヘルス対策に対して産業保健はどのようなアプローチを取りうるか:企業活動促進の観点から

企業での過重労働・メンタルヘルス対策に対して産業保健はどのようなアプローチを取りうるか:企業活動促進の観点から

主任研究員 福井産業保健推進センター相談員 菅沼 成文
共同研究者 同 所長 田中 猛夫
共同研究者 同 相談員 松原 六郎
共同研究者 同 相談員 梅澤 有美子
共同研究者 同 相談員 新井 芳行
共同研究者 福井大学 医学部 堀口 里美

1 背景

 長い景気の低迷時期に連動して自殺者数が3万人を超える状況が続いていることから、わが国ではメンタルヘルス対策の必要性が叫ばれている。また、過重労働による脳・心疾患による労災申請および労災認定件数も増加しており、平成18年4月に施行が予定される改正労働安全衛生法でも長時間労働者に医師の面接指導が義務付けられ、時間短縮に関する検討を安全衛生委員会に担当させるなど、過重労働についても具体的な対策を求めている。
 「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(H14年2月12日基発第0212001号(注))によれば時間外労働を健康障害リスクの予測因子として紹介し、月45時間以上、2から6ヶ月の平均が80時間以上か月100時間以上となるに従いリスクが上昇するとしてあるが、産業保健現場で時間外労働の縮小には経営的戦略と従業員側の行動の一致が不可欠である。上記の「総合対策」では事業者が講じるべき措置として、①時間外労働の削減、②年次有給休暇の取得促進、③労働者の健康管理に係る措置の徹底、の確実な実施が重要としている。既に、先進的な企業では時間短縮への努力が進められていると見られ、労働時間は長短両極の二分化の傾向が見られるが、時間短縮は人員の少ない中小規模事業場にとっては顧客対応への支障に直結するため容易に取れる選択ではない。また、通常の生活習慣病とかなり重複する概念である作業関連疾患を労働災害補償の対象となる事象であるという認識は薄く、企業の経営リスクとして当然考慮すべき問題であるとの意識も薄い。
 今回の調査の目的は、福井県の50人以上の事業場約600箇所の過重労働・メンタルヘルス対策について横断検査を行い、経営サイドの問題意識を明らかにすることを目的とする。また、その家庭で中小企業の人事労務面でのアドバイスを行っている社会保険労務士に対しても小規模ながら同様の調査を行ったのでその結果もあわせて報告する。

2 対象と方法

 福井産業保健推進センターが平成12年時点で把握していた県下の50人以上の事業所740事業所の衛生管理者を対象に過重労働及びメンタルヘルス対策につき郵送法による自記式調査票による実態調査を行った。また、中小企業について人事労務面での相談を受けることの多い、社会保険労務士の団体の協力を得て担当した事業場での状況について同様の調査を行った。

3 結果

1)740事業所の衛生管理者に対する調査結果
福井産業保健推進センターが平成12年時点で把握していた県下の50人以上の事業所740事業所の衛生管理者を対象に過重労働及びメンタルヘルス対策につき郵送法による自記式調査票による実態調査を行った。郵送した740通の質問紙のうち回収したのは388通(回収率52.43%)であった。

<従業員数>
把握していた時点から従業員数の変化があったと思われ、回収された388社ののうち95社(24.5%)が従業員数49名以下であった。50名以上99名までの会社が132社で最も多く、100名から199名の会社がそれに続いた。500名以上の会社は10社のみであった。

<産業保健スタッフ>
産業医が選任されている会社は252社、衛生管理者がいると答えた会社は278社であった。これに対し、産業看護師は40名と少なかった。また、産業カウンセラーがいる会社は4社のみであった。

<労働時間について>
サービス残業が定常化していると答えた会社は9社のみ、80時間を越えるとこたえた会社も3社と少なかった。殆どの会社(261社)は残業時間を減らす努力をしていると答えた。

<メンタルヘルスおよび過重労働の実態>
人間関係が原因でやめた社員がいると答えた会社は118社あった。うつ病で休業した者がいる会社は112社、うつで1ヶ月以上の休業者のいる会社は48社、うつによる自殺者がいると答えた会社は16社であった。また、突然死を経験した会社は22社あった。

<心配される要素>
管理監督者のマネジメント能力不足(136社)、負荷の増大(121社)、仕事の増大(102社)などの回答数が多かった。

<休暇に関して>
育児休暇などの周知は265社ができていると答えた。独自の休暇体制を持つと答えたところが184社あった。

<現状でのメンタルヘルス・過重労働対策>
取り入れている対策として最も多かったのは残業時間の短縮(172社)であった。これに続いて管理監督者のメンタルヘルス講習会(76社)、心理相談窓口の設置(55社)、従業員向けメンタルヘルス講習会(47社)となり対策を進めている会社とそうではない会社との間で内容の開きがかなりある(表)。
過重労働対策として最も多かったのは生活習慣病有所見の把握と管理(158社)、社外医療機関との連携(65社)、労災給付による二次健康診断の活用(41社)、管理監督者向け過重労働講習会(40社)となっており、健康管理に重点をおいた対策であった。

表・従業員数と管理監督者向けメンタルヘルス講習の実施状況

管理監督者向けメンタル講習
従業員数

していない

している

合計
1 - 29

23(95.83)

1(4.17) 24(100.00)
30 - 49

60(84.51)

11(15.49)

71(100.00)
50 - 99

114(86.36)

18(13.64) 132(100.00)
100 - 199 79(75.96) 25(24.04) 104(100.00)
200 - 299 19(82.61)

4(17.39)

23(100.00)
300 - 499 12(54.55) 10(45.45) 22(100.00)
500 - 999 3(42.86)

4(57.14)

7(100.00)

1000 -

0(0.00)

3(100.00)

3(100.00)
未記入

2(100.00)

0(0.00) 2(100.00)
合計

312(80.41)

76(19.59)

388(100.00)

<メンタルヘルス対策の困難さ>
最多は管理監督者の管理能力についての問題であった(154社)。これに何をしたらよいのかわからないとの回答(100社)が続いた。また、従業員同士あるいは上司と従業員(69社)とのコミュニケーションについて困難さを感じるとの回答が多く、専門家でなければ対応できないとの認識(86社)が多かった。

<過重労働>
過重労働対策についての困難さでもっとも多かったのは残業時間の短縮が難しい(131社)との回答であった。また、管理監督者で把握することが難しい(125社)との回答も多かった。残業時間の短縮が困難と答える会社が大きな割合を占めていた。

<メンタルヘルス支援>
現場に対するメンタルヘルスの講習(156社)が最も多く、経営陣に対する必要性の教育(140社)がこれに続いた。心の不調を訴えるものに対する接し方(132社)がこれに続いた。過重労働についても経営陣に対する必要性の教育(143社)、現場の従業員に対する教育(121社)がもっとも多かった。生活習慣病に対する対応(108社)がこれに続いた。

<対策費用> 
 メンタルヘルス対策、過重労働対策、経営改善に関するコンサルタント料のいずれも10万未満と答えた会社がもっとも多かった。
 対策の要望としては、メンタルヘルス対策に対して残業時間短縮についてのアドバイス(170社)、管理監督者への教育(70社)、心理相談(58社)、従業員に対する教育(47社)が多かった。過重労働対策については生活習慣病対策が(155社)、医療機関との連携が64社、二次給付が40社であった。

2)社会保険労務士に対する調査結果
同様の調査票による社会保険労務士への調査結果の詳細は報告書に譲る。

4 考察
 労働時間についての質問については社会期待性バイアスの影響を考慮する必要があり、「努力をしている」という選択肢が必ずしも時間超過が少ないという意味ではなく、質問項目の吟味が不十分であったなどの問題もある。労働安全衛生法の改定により今後は安全衛生委員会で検討すべき項目となるため、実態の把握がある程度進むと期待される。
 また、メンタル不全者数や突然死についても社会期待性バイアスの影響を同様に考慮すべきだが、うつ病や突然死が少なくとも一定水準以上あることが明らかにされた。  講習の必要性の多さは現状で取り組みが殆どできていないことを示しているのではないか。対策費用の少なさも目立った。これは経営陣の総意で改善がなされる場合には大規模な投資が行われる可能性があるが、課長決済程度の予算しか想定していないことに起因するのではないか?事実、作業者一人を削減できる改善案については300万程度の投資が可能ということを著者が担当する事業場では聞いており、当該事業場ではメンタルヘルス事業についても数十万単位の投資がなされている。
 これに関連して、講習に対しては20万円程度しか予算が組めないが、設備変更などについては大きな予算も可能との自由記入もあり、今後の介入や提案の視点を生産性や企業経営という観点と関連させることにより、効果的な改善が可能であると思われた。
 社会保険労務士が担当する事業場は小規模の事業場が多く、50人以上の事業場で産業医、産業看護職あるいは衛生管理者などが行う業務についての相談を社会保険労務士が受けている実情が知られた。社会保険労務士は経営者との交流も多く、これらの人材を通じての対策も小規模事業場に対しては有効である可能性がある。(注)平成18年3月17日付け基発第0317008号により労働安全衛生法の改正を踏まえ、新たに策定されている。

福井産業保健総合支援センター

〒910-0006 福井県福井市中央1-3-1 加藤ビル7階
TEL.0776-27-6395 FAX.0776-27-6397