福井産業保健総合支援センター|独立行政法人 労働者健康安全機構

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福井産業保健調査研究報告書

平成15年度 福井県における産業医活動の活性化に向けての調査研究  

福井県における産業医活動の活性化に向けての調査研究

主任研究員 福井産業保健推進センター前所長 中上 光雄
共同研究者 福井産業保健推進センター相談員 菅沼 成文
研究協力者 福井大学医学部国際社会医学講座 平井 一芳

1 背景

 福井県では、事業場における産業医や衛生管理者の選任は福井労働局の統計からはおよそ7割の選任状況であり共に十分ではない。現在、企業の産業医の大半は非専属の嘱託産業医であるが、医師会認定産業医の資格は有していても、産業医活動に従事していない医師も多い。この背景として、事業者(産業保健スタッフ)と産業医との相互の認識の相違や連携不足も考えられ、(社)福井県医師会からも産業医活動のあり方、活性化させるための方策などの検討を望まれている。
 今回我々は福井県内の認定産業医資格保有者と、事業場の衛生管理者が現状の産業医業務に関する意識の相違を調査することを目的に自記式調査票による調査を行った。認定産業医には、産業医としての活動の有無、勤務実態、産業医活動における困難、講習会のニーズ、当センターに対する要望等について調査し、衛生管理者に対しては、所属事業場における産業医選任の有無、勤務実態、産業医契約上での困難、講演会のニーズ、産業医に対する要望、当センターに対する要望等について調査し、双方の意見の相違点を明確にし、今後のセンターの活動に資することとした。

2 対象と方法

 福井県下の全日本医師会認定産業医322人と平成12年段階で福井産業保健推進センターが把握していた県下の50人以上の全事業場664箇所の衛生管理者を対象に郵送法により自記式質問紙調査を行った。
 産業医についての調査票の質問項目は、事業場においての産業医業務の経験の有無、待遇、勤務状況、業務内容、推進センター等支援機関に対する要望についてであり、衛生管理者に対しての質問項目は産業医に対する要望、事業場での産業医の活動状況の現状、推進センター等支援機関に対する要望であった。

3 結果

1) 認定産業医についての調査結果

 回収率は57.5%(185/322)であった。産業医による業務は健康管理に該当する定期健康診断と事後措置については76.9%、個別の健康相談は71.2%が経験していた。また、56.7%が健康教育を行っていた。特殊健康診断と事後措置については37.5%が経験していた。喫煙対策は34.6%が経験していた。また、労働安全衛生マネジメントシステムについての準備・助言が26%、安全衛生計画が17.3%など健康管理に限らず積極的に活動している産業医の存在が示唆された。それ以外の業務の経験の頻度は低かった。メンタルヘルス相談経験は22.1%であった。
 安全衛生委員会への月一回程度の出席は25%程度で、上記の活動内容において、健康管理に限らず産業医活動を行っている割合にほぼ一致する。一方、安全衛生委員会への出席をしていないとの回答は34.6%であった。これと安全衛生委員会への出席依頼の状況が関連を示している。安全衛生委員会への出席にも報酬の影響は大きかった(図1)。

図1.報酬と月一度の安全衛生委員会への出席との関係
図1.報酬と月一度の安全衛生委員会への出席との関係

 既に産業医として勤務しているものを対象に医師会の産業医担当窓口で必要なサービスについて聞いたところ、産業医活動で困難に直面した場合の相談窓口(48.0%)、適正報酬の呈示(45.2%)、産業医を必要とする事業場の紹介(42.3%)、産業医業務内容の例示(36.5%)など多岐にわたる分野において、医師会の産業医担当窓口に期待していることがうかがえた。産業医として勤務していない81名については、産業医としての勤務を希望するか否かについての設問を設けた。開業医のうちの74.勤務医でも63.3%が産業医活動を希望していた(図2)。また、産業医としての勤務を希望しないものは21名(25.9%)であった。

図2.産業医活動の希望と医師の業務形態
図2.産業医活動の希望と医師の業務形態

2) 事業場衛生管理者についての調査結果

 回収率は48.5%(322/664)であった。衛生管理者の属性については47.7%が5年未満の経験年数であった。回答のあった322事業場の内、14.6%に当たる47事業場が労働者数50人未満であるとの回答であった。41.3%が50人以上100人未満の事業場であった。
 産業医契約によるメリットとして、最も頻度が高かったのは病気についての相談、診察、治療(75.7%)で、次に、安全配慮義務を果たす(35.0%)が挙がっていた。健康増進の観点から、中高年における生活習慣病の予防に関する介入の標的集団として、職域の従業員を捉え、積極的に健康教育を行うことができるとする意見もみられたが7.9%と少なかった。図3に報酬別の勤務実績への満足度を示す。

図3.報酬と企業から見た産業医の勤務実績への満足度
図3.報酬と企業から見た産業医の勤務実績への満足度

4 結論

 以上のことから、結論として以下の4点が挙げられる。
 まず、福井県の日本医師会認定産業医322名のうち3割から5割に当たる産業医が実際に産業医活動に従事していることが示唆された。その活動実態は一月あたりの勤務日数・勤務日一日あたりの活動時間数とも多くなく、月当たり2時間程度の活動をしている産業医が最も多く3割程度を占めた。月額の報酬の程度から、産業医の活動実態は、事業場側の産業医に対する活動要請とほぼ一致している。
 次に、産業医に従事していない認定産業医81名の産業医活動に対する希望を問うたところ、約6割が嘱託産業医としての勤務を希望すると答え、産業医活動をしていない理由の最たるものは適当な事業場が見つからないことと、本業が多忙であるためであった。
 第三に、企業の産業医に期待する業務は、臨床医としての能力に期待しており、これが本来の産業医選任の意義であるはずの安全配慮義務を果たすことを大きく上回っていた。産業医の勤務実態に照らして見た場合、現状では嘱託産業医が臨床能力を生かした健康管理活動を主に行っていることから、そのニーズは十分に満たされていると考えられる。しかし、現在注目されている過重労働による死亡は健康管理のみでは予防できず、労働態様に依存する要因が多いと考えるべきであろう。このような新しい有害要因について作業管理、作業環境管理の観点で改善を行う意義を事業場側にも周知することが重要である。
 最後に、支援機関として医師会や産業保健推進センターが果たすべき役割は非常に大きいことが示唆された。認定産業医のほとんどが医師会員であることから、医師会に対しての期待は大変大きいことが分かる。事業場の紹介、産業医契約書の例示、標準報酬の提示、活動必要時間の提示など実際に産業医契約を結び産業医活動を行ううえで基本的な内容から、困難に直面した場合の相談窓口、継続的な教育の提供など産業医活動の全般に亘っており、今後二つの機関が有機的に連携していく必要がある。一方、企業の衛生管理者の産業保健推進センターのサービスに対する評価は十分とは言えない。対象のニーズを明確化して細分化した情報の提供が必要と思われた。

福井産業保健総合支援センター

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